夫が会社に行けなくなった朝のこと
夫は働いている間、灰色の顔色をしていたので、しばらくはしっかり休もうねと決めた。
こんなにゆっくりしていて、良いのだろうかともう焦りもでてきていたけど、
そういう時間を人生の中でとることを許そうと2人で話した。
夫の休職は急だった。
ある朝、
玄関まで出て、靴を履いている夫に、
私はいつも通り「いってらっしゃい」と声をかけた。
夫は返事をしない。
もうずっと深夜勤務続きで、体調が悪いことは知っていたし、このところ「いってきます」と返事をしてくれることは無くなっていた。
夫はただオバケのような顔つきをして、下を向いて少しだけ頷く。
猫背で、どぶネズミみたいな目つきをしていた。見なかったふりをしたくなるほどのひどい顔だった。
「大丈夫?しんどいなら休んでもいいじゃない?」
「...明後日会議だし」
「じゃあ、調子が悪かったら、いつでも早退しておいで」
「...」
「...」
おかしい、いつもはナンダカンダ言いながら「でも行かなきゃいけないから」と重い足取りで出て行くのだ。
「...?」
靴を履き終わっても、夫は動こうとしなかった。
「行けない」と言って
泣きそうな顔をしていた。