違和感を言葉にしてくれる本を持ちたい。角田光代『対岸の彼女』
角田光代さんの長編小説が好きだ。『八日目の蝉』に打ちのめされて以来、『紙の月』、そして今日『対岸の彼女』を読み終えた。
すっかり角田さんのファンとなった。
角田さんの長編では、主人公がニュースになるような事件を起こすことが多い。
上の三作とも、専業主婦がものすごい勢いで、これまで歩いてきた道とは別方向に向かって逃げる。進む。すごいパワーで、鬱屈させてきたエネルギーで変化を起こす。
その周囲にいるのが、いつも愚痴っぽく噂話や悪口を言っている人であり、妻や家事に無関心で妻を見下している夫である。学生の頃クラスの中で起こる不穏な空気である。女子の駆け引きである。働く嫁にいやみを言う姑である。
なんだか気持ち悪い、なんだかあの人に会った後は気分が悪い。親戚の集まりの後ひどく疲れる。でも自分がなにか悪いことをしたのかもしれないし、気のせいかもしれない・・・
主人公はたいていどちらかと言うと大人しめで、自分の思っていることをはっきり口にしないタイプである。集団の中ではにこにこと話を聴いているタイプである。
彼女は日常で発生する、なんかいやだった、なんだろうあれは、と思うことがある。ことばにできない不快感、胸の奥にある違和感。
大人しく優しい主人公は、はじめ自分の中に発生する違和感を、いや私が悪いのだからと見ないふりをする。しかし外に働きに出て話し相手ができたりする中で、言葉にするすべを得て、はっきりと不快であることを認識するのだ。
そういう不快感や違和感を、角田さんの本はひとつひとつ掬って言葉に置き換えてくれる。
そうそう、夫のこの感じ、家事を押し付ける感じ、見下している感じ、わかる。
でもいい人なんだしとごまかしながら過ごそうとする感じ、わかる。
そうして彼女がどう結末を迎えるのか、救われたいような思いでページをめくるのである。
主婦の爆発力がみられる小説である。
読む年齢によって、共感できる小説は違うと思うが、小説でいちばんおもしろいのは、こういう「ことばにできないものをことばにする」ことで目が冴えたような気持ちになることである。
『対岸の彼女』も、タイトルからするとのほほんとした内容と思いきや、全体的には暗い。でも最後は突破する。森絵都さんの解説がまたぐっときます。
印象に残った描写、これ
「ふさがれた窓の向こうの、細長い青空」
ふさがれた窓の向こうの、細長い青空を目指して、進む。