ゆりおろぐLIFE

エッセイと日々の活動。

歯医者への呪い②

カジュアルに神経を抜かれない歯医者に行きたい。

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「痛い」と言うと、「腫れる」と言うと、じゃあ神経抜きましょうかって軽く言われない歯医者に行きたい。

抜けば二度とは戻らぬ、この私の残りの神経を大事に扱ってくれる医者に。

 

この頬の腫れに対して、神経抜く以外の選択肢くらい、きっとあるはずだ。

 

名医。私は名医に会いたい。名医しか欲しくない。1つ角を曲がれば歯医者のあるこの町で、名医のひとりふたりくらいいるはずだ。

 

そういうわけで、別の歯医者を探すことになった。

 

前回の失敗により、ネットの病院口コミサイトには懐疑的だった。ポジティブな投稿の多さに違和感があったのだ。

「セツメイガテイネイデス マチアイシツガキレイデス 口コミドオリノヨイセンセイデシタ…」

 

 口コミサイトって、書くのも面倒だし「すっごくよかったとき」と「すっごく嫌な思いをしたとき」に書く気がするんだけど、待合室が明るいとかスリッパが清潔とか、病院の口コミとして、果てしなくどうでも良いよね?ぬるい前向きコメント、嘘くさすぎるよ?

 

ネットリテラシーの高い夫によれば、口コミサイトにひたすら良い評価を書き込むアルバイトがあるそうだ。。

 

もう、病院口コミサイトを頼りにすることはないだろうと思った。

 

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頼りになるのはリアルな口コミだ。あらゆる知人のコネクションをたどり、良い歯医者を教えてくれと泣きついた。すると、次のような返答を得られた。

 

「私はS歯医者がおすすめ!麻酔で失神したけど」

「おじいちゃんはA歯科」

「田中さんもAの先生が上手いって」

 

「ひろちゃんおすすめのM歯科に行ってる。Aにも行ったことあるけど、ため息が多くてやめた」

 

次々に届く歯医者おすすめ情報でも、Aに票が集まった。

 

「腕がいいのにため息が多い医者」なんて、どう考えても面白そう。

Aにトライすることに決め、知人とはため息の数を調査する旨の固い約束を交わした。

 

私の頬は相変わらず腫れ、口も顎もしびれたままだ。私のイライラと不安もピークに達していた。

 

翌日は、暑い日だった。

 

A歯科へ行くと、まず受付の人がものすごく美人だった。だからなにということはないが。

 

2日前からしびれた顔とストレスと疲れを持て余していた私は、待合室のふかふかのソファで大きく息をついた。なんとなくいい予感がした。 

 

先生は、結論から言ってかなりよさそうな人だった。

 

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まず、耐えず独り言をいっており、考えていることが筒抜けだ。わたしは人を察するのが苦手なので、そういう人が大好きだ。

 

また、調査の結果、ため息の数は合計で6回を確認することができた。

しかしこのため息は、集中しているクリエイターの吐息、あるいは没頭している研究者の無意識の呼吸といった種類のものだと感じた。そこはかとない、名医の予感。

 

前の歯医者では神経を抜いてみるしかないと言われていた私の口内環境だが、この先生は入念なレントゲン撮影と聞き取りを行い、「別の歯が原因ではないか」と診断を下した。少し前に神経をとって治療した、銀歯である。

 

顔が腫れたりしびれたりするのは、「死んだ神経でしか起こらない」らしい。

 

先生は、銀歯をはずし、ぷうんと出てきた塩素の香りに「歯医者くさい」と数度つぶやき、わたしは歯を弄られながら吹き出した。

 

...

わたしの前途は明るいか。

とりあえず、この先生を信じてみることにした。

が、この病院はすぐに夏休みに入ってしまったため、まだ治療はおわっていない。

 

腫れはやや引いたような気がするが、あごのしびれは、まだとれない。