ゆりおろぐLIFE

エッセイと日々の活動。

上司がはじめて笑った日には

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上司は、大抵笑顔だ。

 

社外の人とたくさん関わる業務を担当しており、よく会食に出かける。いつも美しいメイクとファッションで、微笑んで人と接している。


しかし、それは営業スマイルだった。


そう思ったのは、今日初めて、上司が歯をいっぱいに見せて、声を出して笑ってくれたからだ。まるで帰省して久しぶりにおばあちゃんに会ったときのような、リラックスした笑顔だった。

 

10日前のできごと

少し時間を遡って、10日ほど前、上司に面談を申し込んだ。

悩みすぎて、もう仕事に集中できないレベルになったからだ。


親しく話せる人がいなかった。時給が低かった。技術的に相談できる相手がいなかった。少しトイレが長引くと怒られた。昨日怒られなかったことで今日はいきなり叱られた。


私はいつも監視されて、今にも怒られるのではないかと恐れながら席に座っていた。モチベーションは下がり、最低限の業務しかしていなかった。できなくなっていた。また時給が思ったように上がらないことで、会社に対する不信感も持っていた。

 

吐きそうになりながら会社に行くのも、何でもないような顔をして席に座っているのも、もう無理。もうイヤ。辞めるか、何かを変えなければ。

 

上司は怖かったが、思い切って面談を申し込んだ。

話は聞いてくれる人だった。私はもう辞めてもいいと思っていたので、言いたいことをみんな言った。時給を上げてください、わたしには合わない、シフトを減らしたい、職場に来ると元気が無くなる、食欲がなくなる、みんな言った。

 

面談の後、上司は元気が無くなったように見えた。

 

内心、ざまあみろという気持ちもあった。あんたが作ってきた職場は、そういう空気だったんだ、社員を追い詰める空気だったんだ、幸せにしてこれなかったんだ、だから私の前任者だって突然辞めたんだぜ!

知って欲しい、変わって欲しい。そういう気持ちがあった。

 

一方で、私。

面談で言われたのは、意外なことだった。電話にもっと出て欲しいということ、宅配便の人が来たら立ち上がって欲しいということ。

そういうことを大事にしているんだな、と思った。それから、やっと言ってくれた、という感じ。私に対する不満を、ようやくフィードバックしてくれた。

 

それまでは、なんとなく不機嫌にされることで終わっていた。おはようございますと挨拶しても、お先に失礼しますと挨拶しても、大抵感じが悪かった。

陰で何か言われているんだろうな、という感じ。何か私に不満があるんだろうな、という感じ。でも言われなければわからないから、ただ「嫌われているんだろうな」と元気がなくなり、モチベーションが下がるだけだった。

 

怖かった。だから、ようやく言葉にしてくれたことで、安心した。

 

そして、とりあえずはそのリクエストに応えようと私は考えた。影でコソコソ言わず、不機嫌にすることで相手から何かを引き出そうとしたりせず、はっきり言葉で伝えて欲しい。言ってくれたら私は変わる。相手は変わる。

そう知って欲しくて、私は行動した。意地のようなものもあった。気持ちの悪い感じで辞めたくはない。

だから電話は全部、とるようにした。

 

自分が変わることで

そう行動して行く中で、私は本を読んだりしながら、またいろんなことを考えた。

 反省もした。

gotoyuri.hateblo.jp

 
辞めたい明日行きたくない、それしか考えられなかった職場で、私は会社のためには働けないと思った。

だから会社のためではなく、お客さんのために、目の前の仕事をやろうと考えるようになった。

 

そうして電話を取り続けていたら、明らかに社内での居心地が変わってきた。前は厳しい物言いしかしなかった人が、優しくなった。「大活躍だね」と声をかけてもらうこともあった。

 

すごい、電話ってわかりやすいのだ。言われてみれば、他の人がどんな仕事をどれくらいのスピードとやる気でやっているかなんて、わからない。なんかパソコンいじってるなくらいしか、わからない。

 

でも電話は明らかだ。とるか、とらないか。取っていればとりあえずやる気があるように見える。それに、確かに電話を取って取引先やお客さんとお話しすることで、商品に対する知識は増えた。社内の人に教えてもらわなければこたえられないことも沢山あり、コミュニケーションは増えた。

 

 

それを続けて、1週間。今までより業務量をこなしているため帰宅するとぐったりとしていたが、居心地がよくなったおかげでモチベーションは回復していた。会社に対するやる気はないが、仕事に対するやる気はあった。

 

さらに仕事のスピードも上げた。社長の「こんなのできたら良いなあ」と投げられたふわふわした球を、素早く形にして、打ち返していった。

 

10日後の上司

そんなある日。

面談から10日後の終業間際。

私は仕事上の相談、というかアイディアを話していて、上司は笑った。

「いいかもしれないね、でも考えさせて」素っ気ない言葉だったが、いつもと違っていた。


歯茎が見えるくらい、笑ってくれていた。すごく自然で、可愛い笑顔で驚いた。うわあと思った。


私の態度は、目に見えて変化していたと思う。上司はそれをどう受け止めていたのか、わからない。そこまで私に興味はないだろうから、まあヨカッたワーくらいに思っていたかもしれない。

 

しかし、私が仕事の完了を報告すると、上司は私の作ったデザインを持って、その日のうちに他の人と相談を始めた。

上司はwebに疎く、それまでは私に「確認してください」と言われても後回しにしがちだった。でもその上司が、すぐに立ち上がったのだ。

 

上司も、応えたいと思ってくれたのかもしれない。


私が変わったから、上司も変わろうとしてるのではないか。


じわじわ、感動した。

 

ずっとこの会社で働くことは考えていないけど、だからと言って、今の時間がどうでも良いというわけではない。

 

上司にビクビクするのはやめた。意見は言う。要望も伝える。合わせられることは合わせる。

 

この先もどんな形でどこで働いていくかわからないけれど、その環境に合わせて、グニャグニャ自分の形を変えられる。そんな感じで良いやと思った。