我々A型インフルエンザは。
咳が出て、鼻水も出てきて風邪かなあと思っていた。翌日は楽しみにしていた麻雀の予定が入っていたので、すぐ治して参加するつもりで眠ったのだ。
夜中の3時に寝苦しくて目が覚めて、これは熱出てるなあと思う。38.6度だった。寒気と気持ち悪さで朝までほとんど眠れず、7時には39.8度にまで上がっていた。
まだ寒気がしていた。これ以上上がるとヤヴァイと思い、病院で診てもらうことにした。
外は太陽がサンサンと降り注いでいた。
薄暗い沼の底から這い出してきた私(すっぴん猫背)は顔をしかめてユラリユラリと歩いた。無論まぶしいので、半目で歩かざるを得なかった。でもあたたかく明るく気持ちが良かった。高熱だしどう見られようと気にならない。眉毛がボサボサだろうと前髪が逆立っていようと関係ない。不健康と美の両立は困難なのだ。
病院で永遠と思われる時間、待合室に座っていた。
受付の窓口の前の席だった。少しでも早く診察してもらいたいので、ぐったりと頭をもたれたり、具合が悪いところをアピールしたが、病院は体調の悪い人ばかり来るせいか、特にそういった努力が功を奏した様子はなかった。
ようやく呼ばれて診察を受ける。
世間話をされた後、鼻の奥深く、寄った糸のようなものを入れられた。インフルエンザの検査らしかった。しばらくすると、検査キットが赤く変化していた。
「A型インフルエンザですね」
人間、原因がわかるとスッキリするものである。しかも、インフルエンザ用の吸い込む薬と解熱剤までもらえた。嬉しい。幸運としかいいようがない。医学の進歩ありがとう。
会計待ちをしていると、待合室に中年のご夫婦が入ってきた。「インフルエンザの予防接種を受けたいんですけど」と言っていた。
私は、「えっ」と思った。えっマスクもしてないし…多分この待合室の半分くらいインフルエンザ患者だと思うけど…ウイルス充満していると思うけど…予防接種what?という気持ちでいっぱいだった。
流行り病の患者というのは、自分はもうかかってるものだからビクビクしなくてもよい、これ以上かかることはないんだという謎の上から目線をもつことに気づいた。我々は強く特別で、他の者は弱く警戒しなければならないのだ、というような。
高熱でぼーとしながらそんなことを考え、薬局で吸い込む薬の指導を受けることになった。
既婚子持ちとはいえ、すっぴんかつ鼻水でガビガビの顔を薬剤師さんに晒すのはどうなのだろう、と思った。思ったが、楽になりたいし面倒くさいという気持ちが優った。
指導を受け、正しく薬を飲んで、いち早く治したい。少しの薬も漏らしたくない。私は患者の中の患者、説明書通りに実践する優等生なのである。
息を吐ききり、思い切り薬を吸引する。3秒間、息を止める。薬がくそまずいので、「3秒間はむせないようにしてください」と言われた。
フラフラしながら私はやりきった。薬剤師さんと心の中で拳を付き合わせた瞬間である。
この薬で、インフルエンザ菌が体内で増殖することは無くなるらしい。
ただ内科の先生に母乳はインフルエンザ菌をコドモに移してしまいやすいと言われたので、一時的に断乳することにした。
この夜は、乳をもらえずに泣き叫ぶ赤ん坊と、地獄の夜を過ごすことになる…
※写真は洗濯乾燥後発見された綿の手袋である