靴のゆくえ
朝出かけようと思ったら赤ん坊の靴が片方みつからない。赤ん坊は左にグリーンの靴をはかされたまま、べそをかきだした。
私も泣きそうだ。
10分探したがどこにも見つからないので、仕方なく右足には別の靴を履かせた。右はブルー、左はグリーンである。申し訳ない。自分ならともかく子どもにこのようないい加減な格好をさせなければならないことに、申し訳ない思いがした。私がだらしないからだ。無計画だからだ。どこかへやってしまったのだ。
まあしかたあるまいと思い直す。左右メーカーは同じだし、アシンメトリーなファッションなんだ、道行く人もそう思うだろう。
今日は足を伸ばして、森のような大きな公園へ行った。
あたたかく、公園は明るく人通りは少なかった。大きな木に囲まれて、いつもより空気が澄んでいる気がした。
赤ん坊は楽しそうに楽しそうに歩き回っていた。草を拾ったり落ち葉を拾ったり石を食べたりしゃがんだり転んだりしていた。
その様子は大変可愛く、充実していた。
靴が左右ちがうとか、いやこれはアシンメトリーでお洒落だから変じゃないんだとか、そういった言い訳とかつまらない価値観が入り込む余地は全く無い。
ひたすらに今が素晴らしく、楽しいということ、今の嬉しい時間に集中することが大切なんだよ。足元の落ち葉を踏みしめるのが楽しい。後のことは知らない…
赤ん坊はそんなふうに、過去をくよくよ悔やんだり未来を憂いたりすることなく、人の目を気にしたりすることなく、いつも充実した今を過ごしていて、眩しいほどであった。
コドモは素敵である。
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帰宅後、食事の支度をしていたところ、食糧庫から異物が発見された。インスタントラーメンの上に小さな靴がチョコン…と乗っており、体の力が抜けた。
私は母として、赤ん坊に伝えなきゃいけないことはそんなにないと思っている。大抵のことは君は自然と理解できるはずだ。
ただ、靴を食糧庫に入れるのはやめた方が良いとか、他にも玄関にきりたんぽを置くのは斬新すぎるとか、人の着ているキャミソールは小物入れではないとか、
そういったことだけは、伝えておかなければならないと感じた次第である。